『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』読了
今更かもしれないが、文庫化された『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』を購入し、読了した。
ただマイヨ・ジョーヌのためでなく (講談社文庫 あ 105-1) 著者:ランス・アームストロング |
著者はもちろん、ランス・アームストロングである。
最初に断っておかなければならないのは、「マイヨ・ジョーヌ」という単語に惹かれて本書を読んでも、ロードレースに関する記述はあまり多くない、ということだ。つまり本書においてロードレースは筆者にとっての「生活のための」手段であり、日々の糧を得る方法に過ぎないのだ。それは病気との闘い、伴侶との出会いなどを見れば明らかだし、彼自身本書の中でそう語っている。
それを考えると、この邦題は正しいのだろうか?原題である「It's not about the bike」を直訳したほうがよっぽど良かったのではないだろうかと思う。マイヨジョーヌという言葉を知っている人の多くは彼という選手を知っているだろう。なんだか、邦題には出版社側の「売ろう」という意志が強く働いているような気がする。
ま、販売戦略は別にしても本書はとても楽しむ事が出来た。自分が自転車に乗っているからということではなく(もちろん本書を手に取ったのは自転車がきっかけだが)、1人の人間として楽しむ事が出来た。
物語は冒頭、ガンを宣告され混乱する主人公の描写に始まり、一度過去に戻り彼の生い立ちから物語が進むにつれ「現在」に近づいていくという構成。はっきり言って彼の少年期~病気の発症までの章を読んだ限りでは、彼のような人間性はあまり好きになれない。才能があるがゆえ、自己中心的で周囲と協調しようとしない。チームメートだけでなくコーチの指示にすら従わない。「ナンなんだ、このガキは」と思ったが、読み進むうちに病気に対する姿勢や周囲の人に対する思いやりを持ち始めるなどの変化が現れてくる。
なんといっても、そのように彼を変えた病魔の功績は大きいと思う。いや、一歩間違えれば死の淵に立たされていたわけで、ガンを肯定するわけではないが、このようなきっかけがなければ彼は変わらなかったのかも知れない。
そんな彼が人生に対して前向きに生きる事が出来た過程を記した本書は(彼自身が著しているがゆえに)正直で、実直で、恐怖や不安も表面に出しており、ただの事実をつらつらと書き連ねた書とは根本的に異なる。
自転車というツールを通して人間がここまで変わることが出来るという好例を示した良い書だと思う。
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コメント
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珍しく書籍の記事にコメントです!
10さんの以前の記事を見て、私も読んでみました。
日本語のタイトルに対する感想、癌になるまでの著者の態度に対する意見。私も全く同感でした。
私がこの本を読んで一番印象に残っているのは、シスプラチンと戦っているアームストロングの姿です。抗癌剤が癌患者に与える苦しみが心に刻まれました。
あ、今アシストくんが読んでいるのであまり詳しく書くと怒られちゃいます。この辺で・・・。
投稿: みくま | 2008年7月29日 (火) 23時53分
みくまさん、コメントありがとうございます。
たまたまランスが自転車乗りだったというだけで、癌との戦いには自転車は無関係ですが、自転車に乗っていない人が少しでも興味を持ってくれればいいな~と思ったこともまた事実です。
みくま夫妻は本の趣味も普段から合うんですか?ウチの場合カミさんはあまり本を読まないので、本の内容で語り合うという事がありません。うらやましいです。
投稿: 103 | 2008年7月30日 (水) 04時55分